魔法少女さんだいめっ☆ (著:栗ノ原 草介)(ガガガ文庫)|読書感想文

 小学館ライトノベル大賞への投稿を目標としている身として、レーベル研究は欠かせないもののようです。具体的な執筆タスクに入る前に、まず最近の受賞作を読んで傾向をつかんでみようと、第11回、第12回、第13回の受賞作は最低でも読んでおこうかなと思っております。

 前回は第13回受賞作のうち、先んじて先月に発売された「クラスメイトが使い魔になりまして」のレビューを書きましたが、第11回、第12回の受賞作にも触れてみようということで、タイトルの「魔法少女さんだいめっ☆ 」(第12回小学館ライトノベル大賞・ガガガ賞受賞作)を読んでみました。

 今回も一応ネタバレはなしで、自分の視点で良いと思ったことを中心に感想を書いていきたいと思います。

栗ノ原 草介/風の子 小学館 2018年06月19日
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徹底した色彩統一

 作品の核となる設定は、終始魔法少女をめぐるものになっています。子供向けから大人向けまで、基本的に魔法少女(特にセンター級)のベースカラーはピンク色という認識が刷り込まれているのを利用して、徹底的にその世界観をピンク色に染め上げるというところに、意識の高さを感じました。

 魔法少女としての素養を持つ人物の髪の色、桜の季節の街並み、食事シーンに至るまで、徹底してピンク色を強調しています。直截的な表現が多いような気はしましたが、その方がラノベターゲット読者にとっては、世界観の没入に貢献している気がするので、要素は色でなくても良いとは思いますが、何かしら一貫した世界観を貫くための要素は必要なのかなと感じました。

 一点だけ、対比として面白いのは、ヒロインが魔法少女に変身したときの衣装だけは緑色、という設定にもこだわりを感じます。あえてヒロインの容姿をピンクに統一しないことで、まだ未熟な魔法少女であるという設定を活かすと同時に、緑という色は新芽が芽吹く様子も暗喩していると思うので、このようなこだわりをアクセントとすることで、完全にありがちな魔法少女という記号にとらわれないオリジナリティが出ているのかなと感じました。

既存のアイディアの組み合わせで魅せる

 この作品には、基本的にありふれた設定を使っているのは確かだと思います。ヒロインは魔法少女。そのライバルは悪魔、という名の宇宙人。といった具合に、読者はそういった構図のアニメや漫画などについて知っていること前提で進められています。

 そして、形はどうあれ、魔法少女の力が次の世代へ受け継がれていくことや「結城友奈は勇者である(勇者だけど)」、男が魔法少女になってしまうという設定「魔法少女 俺」なども既存のものであり、それらの設定に陥りそうになってしまいそうな予感も正直ありました。でもそこに「3代目」というオリジナリティを付け加えたことで、この作品独自の面白さが作られていると思います。

「3代目」と言われたら、祖母の世代から続くのか? と単純に考えそうであるが、そこは物語の核になる設定なので、自分からは明言しないことにします。

キャラクターの活躍と設定は尻すぼみな印象

 この辺りはもしかしたら、次回作以降の伏線だったりして1巻では回収しきれてないのかもしれませんが、例えば主人公の妹は挿絵にもなって序盤に意味ありげに登場する割には、その後あまり活躍することは無かった点は細かいですが少し気になりました。

 また、ヒロインが成長していく過程については、精神論だけではなくもっと論理的な裏要素があると納得できたかなあと思います。もちろん爽快感はあるので、私TUEEEEとなってもいいのですが、挫折や苦悩といった展開がもうちょっと深ければ、最後の盛り上がりをもっと楽しめた気がします。

まとめ

 読者は選ぶと思いますが、深く考えずに楽しい時間が過ごせる。という点や映像化を意識した描写は王道ライトノベルという感じがしますし、教本でよんだ、既存のアイディアの組み合わせに1%のオリジナリティでここまで面白くなるのか、という感覚を体験できる良い機会となりました。

 何より、好きなものを追い続ける。というテーマは爽快なものです。いま自分が好きなことをやっと見つけて、こうして追いかけている今、ぐっとくるものがありました。どうもありがとうございました。

栗ノ原 草介/風の子 小学館 2018年06月19日
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