平浦ファミリズム (著:遍柳一)(ガガガ文庫)|読書感想文

 平日はちょっと勤務先が変わるなどして、あまり文芸部活動ができておりませんが、ガガガ文庫の受賞作をとりあえず読んでみるということで、今回は第11回小学館ライトノベル大賞ガガガ大賞受賞作品である「平浦ファミリズム (著:遍柳一)」を読んでみての感想を書いてみます。

 基本的にあらすじやネタバレはせずに、どういうところが受賞作品としての魅力なのかを今の自分なりに考えた感想を書いていきます。

遍 柳一/さかもと 侑 小学館 2017年07月19日
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淡々と物語が進んでいくようで、読み込ませてくれる、泣きそうになる不思議

 場合によっては該当作品なしであることも多い「大賞」を受賞された作品、ということで、純粋に読んでいて感動できる場面が多かったです。

 多分、今の自分がこの本のあらすじを書いたら、その時点で下読みさんに落とされてしまうんじゃないかな、と思うくらい、ファンタジー要素も無ければ強烈なラブコメでもない。ライトノベルというよりはライト文芸寄りの作品であります。

 ただ、それでもどのキャラクターもきちんと立っていて、小説というのはそもそも人間を書くものなんだ。ということを思い知らされました。主人公がニヒルな感じで、淡々と出来事が進んでいくように思えながらも、タイトルにもあるように、その家族とのエピソードがいちいち泣かせてくれます。

 これは技術なのでしょうか? キャラクターやテーマをきちんと突き詰めた結果ももちろんあると思いますが、それを表現する力もあり、素人が言うのもなんですが、正直新人賞とは思えない老成された感じを受けてしまいました。

人間を書く

 先にも触れましたが、とにかく色んな問題を抱えた人間模様が描かれます。いわゆる「普通」「テンプレート」「ステレオタイプ」な人間というのは出てこない。というか、そもそも世の中に「普通」の人間などいないということが前提に書かれていると思います。

 そして、それらの人々がきちんと物語中で大切に思われ、いわゆる敵に当たる人物ですら、最後はある種救われる(存在を許される)形で終わってゆきます。主人公自身は、多様な人々への受け入れを拒絶していきますが、いわゆる成長モノであるので、そこはどのような形で主人公が成長していくのか、をある種共感を持って読み進めることができます。

 人間を書くためには、多様な視点や意見を他の人から取り入れなければならないと思うのですが、今の自分に一番足りてないところだと十分認識しているので、作品を書くに当たって、自分の承認欲求を満たすためではなく、きちんと人間について、理解できなくとも興味を持ったうえで、いろいろなキャラクターをかき分けなければいけない、感情にリアリティを持たせなければいけないことを学びました。

人称をどうするか迷う

 ちなみに、今の自分が書こうとしている作品の人称をどうするか迷っているのですが、「平浦ファミリズム」では、基本的に一人称ではありますが、断章という形で、他の登場人物から見た主人公への評価、思いが語られたりするので、その手法を使ってよいのかな、というのは参考になりましたが、最後の場面ではどうしても、場面を分散させなければいけなかったので、そこだけちょっと視点がばらけた印象を持ちました。

 自分の作品においては、本当は主人公視点を大事にしようと思っていたのですが、今は初心者らしく三人称視点にしてみて、フォーカスを主人公に95%くらい当てる、という手法を取っていこうかなと思いました。

 ただ、この三人称にも裏のメッセージを込めたいと思っています。

 って偉そうに語る前に、きちんと執筆し作品を書いてみないと、何も始まらないので、今日はこの辺にしておきたいと思います。

まとめ

 この本は一般文芸の方に興味がある人にも勧められる作品かなと思いました。ラノベのテンプレートにあふれている中、こういう落ち着きながらも、ぐいぐいと読ませてくれる作品に巡りあえて感謝しております。

 その性質からかシリーズ化はされていないようですが、著者の次の作品である「ハル遠カラジ」も興味がわいたので、そのうち読んでみたいと思います。

 純粋な感動の時間をいただきありがとうございまいた。

遍 柳一/さかもと 侑 小学館 2017年07月19日
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