千歳くんはラムネ瓶のなか(著:裕夢)(ガガガ文庫)|読書感想文

 本日は休みの土曜日。午前3時起きで昼過ぎまでプロットを書いたり即興小説を書いたりして眠いのですが若干テンションが高めです。少しだけ昼寝をしてから「千歳くんはラムネ瓶のなか(著:裕夢)」を一気読みしました。

 第13回小学館ライトノベル大賞、優秀賞受賞作。つい先日発売された新刊です。レーベル研究の真似事で感想を書いていきます。具体的なエピソードは記載しておりませんが、物語のテーマ的なネタバレは含んでいるかもしれませんので、未読の方はご注意ください。

裕夢/raemz 小学館 2019年06月18日
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主人公がかっこいい

 もうベタな感想ですけど、やっぱり主人公がかっこいいと読んでてスッキリします。特にこの作品は、主人公がリア充というオタクを裏切るような設定がウリになっていますが、リア充なのにこんな引きこもりおっさんでも共感できるように、リア充っぷりが嫌味なくかっこよく描かれてるのが純粋にすごいです。

 そして主人公がリア充であれば当然出てくるもう一人のキーマン、非リアの彼はもう一人の主人公と言ってよいのかなと思います。リア充とか非リアといった色眼鏡で人を見ることしかできなかった彼の成長を通して物語が進んでいくことで、人が前に進むことのかっこよさも伝わってきました。

安易にラブコメやサービスに走らない丁寧さ

 この作品の魅力は、やっぱり異なる価値観を持つもの同士の交流、友情、人間関係が深く掘り下げられて描かれていることにあると思います。

 そのテーマを貫き通しているため、キャッチコピーにある「恋愛ラブコメ」をメインに期待して読んでしまった人は、もしかしたら肩透かしを食らう可能性があるかもしれません。

 もちろん、リア充が主人公なので、きちんと周りにヒロイン級の女の子がいっぱいいて、お色気イチャイチャエピソードがそれぞれ用意されている点は安心していいと思いますが、やはりこの物語においてそれは風味付けなのかなと感じました。

 むしろがっつり描かれるのは友情を中心とした青春です。それがすごく掘り下げられて書かれているため、リア充な主人公の恋愛模様をディープに書いてしまったら、きっと読者の反感を買ってしまうことを丁寧に考慮して、バランスを取っています。

 危ない橋を渡りつつ、読者を爽快な気分にさせる表現はやはりすごい技術なのでしょう。素人で人間関係も希薄な自分に真似できるかと言われたら難しいと思います。

現実に根差した人間理解

 リア充や非リア、陽キャ陰キャといった対比、学校内のカースト制度については、社会で成長してきた限り、誰にとっても理解できるテーマです。どの立場にいたかはそれぞれ思うところがあるでしょうけど、人間関係において避けては通れないテーマに直球で踏み込んでいき、徹底的にそのテーマで物語が進んでいきます。

 そして、どの立場の視点も理解し、尊重したうえで、何が人間にとって大切なものなのかをきちんと貫いている。そういう生き方こそが本当の「リア充」であることを、「神」とさえ呼ばれる主人公が実践しているさまは、繰り返しになりますがやっぱりかっこいいです。

 人間の表面やレッテルにとらわれない、そういう人間理解ができたとき、人は真に幸せになれる。そういう教えをエンターテインメントのメッセージとして描くことは、自分がやりたいことの理想形でもあります。

 それをやられてしまっていることへの悔しさは正直ありますが、いい材料として、自分も何かしらのメッセージを伝えられる作品が作りたいという創作意欲が湧いてくる。そんな作品でした。

まとめ

 正直なところ、レーベル研究という名目が無ければ読もうとすることのなかった一冊だとは思います。ラブコメという意識が先行していて、自分みたいなおっさんには合わないのではないかと。

 でも、いざ蓋を開けてみたら共感できるテーマの雨嵐で、眠気も吹っ飛んで一気に読み進めてしまいました。やっぱり食わず嫌いは視野を狭くしますね。これまで偏ったジャンルの作品しか読んでこなかった自分が小説を書こうだなんて恥ずかしい限りですが、恥ずかしくてもいいからやってみる、

「……『なにがあろうと変わってみせる』という覚悟の旗を握りしめ、心の真ん中にぶっ刺して絶対に手を離さないこと……」

本文のセリフより引用

 という主人公のかっこいいセリフをバネに精進していきたいと思います。ありがとうございました。

裕夢/raemz 小学館 2019年06月18日
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